【解 説】
2008年9月のリーマン・ショック、ついで、2011年の東日本大震災、福島原発事故、未曾有の円高と、日本の製造業は大きな打撃を受け、広島の鋳造業もその影響をこうむっている。
様々な機械の重要部品となっている鋳物を作る鋳造業は、慢性的に人材不足にあえぎ、長年培ってきた技術を継承するのも困難になりつつある。
実は広島県は、かつて全国でも1,2位を争うほど鋳造業の盛んな地域であった。
この映画は広島県鋳物工業協同組合が自らの歴史を顧みるために、そして鋳物とは何かを広く知ってもらうために、2008年6月に企画をスタートした。
以来3年余、鋳物関連企業、製鉄・鋳物関連の史跡・遺跡など広島県内を中心に、島根・大阪・奈良・名古屋へと広範な取材を重ね、歴史と技術の両面から鋳物を探ってきた。
訪ねる人々も鋳物関連企業の会長、相談役、社長から、鋳造研究者・技術者、歴史研究者、考古学研究者、そして熟練工に至るまで幅広く、それぞれが「鋳物」について熱く語る。
砂鉄を産出する中国山地を背にする広島は、古代から鉄との関わりが深い。
中世に鋳物師たちが広島に定着し始め、江戸時代には独自の技術が生まれた。
明治・大正・昭和には、軍需生産により隆盛したが、1945年、原子爆弾や空襲により灰燼に帰した。
しかし朝鮮戦争以降の高度経済成長の中で、広島の伝統ある鋳造業は大きくよみがえる。
そして、自動車産業を含む機械工業からの需要などを背景に反映してきた。
ただし近年、グローバル経済に翻弄され企業数は減少している。
行き先の見えない今日、もの作りの原点に立ち返り、今一度、広島の鋳物とは何であったのか、どういう歴史を歩み、どういう魅力を育んできたのかを映像で採り記録する。
それはまさしく「時を鋳込む」記録であり、「モノづくり」の再生を祈念する作品でもある。
撮影・構成:青原さとし(『土徳』『藝州かやぶき紀行』)
音 楽:野村雅美&岡崎俊介
ナレーター:水本まゆみ 朗読:高尾六平
監 修:石谷凡夫、妹尾周三
企 画:広島鋳物映画製作委員会
製 作: 広島県鋳物工業協同組合(2011年/HDV/119分)